何はさておき記述統計 その5【「実践的」臨床研究入門】第44回

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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

2群の生存時間曲線を比較する

 今回は、無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)を用いて前回作成したKaplan-Meier曲線と統計解析(Log-rank検定)結果の出力を確認して解説します。

 まず、Kaplan-Meier曲線(図1)ですが、低たんぱく食厳格遵守群(Treat=1)は赤線で、低たんぱく食非厳格遵守群(Treat=0)は黒線で表示されています。

図1

 デフォルトのオプション設定で指定されているとおり(連載第43回参照)、「打ち切り」は「ヒゲ」で表され(連載第42回参照)、また各時点での観察対象となるat risk集団(連載第35回参照)のサンプル数が”Number at risk”として示されています。

 生存時間解析の結果の要約とLog-rank検定の結果は、EZRのRコマンダー出力ウィンドウの最後に表示されています(図2)。

図2

 低たんぱく食厳格遵守群(Treat=1)、低たんぱく食非厳格遵守群(Treat=0)のサンプル数はそれぞれ212例、426例で、右端に表されているのが両群間の生存時間曲線の比較検定(Log-rank検定)のp値です。生存期間中央値と95%信頼区間はそれぞれNA(not available)と表示されています。生存期間中央値は、Kaplan-Meier曲線で生存率(イベント非発生率)が50%となる値(期間)です。Kaplan-Meier曲線(図1)をみてわかるように、両群とも観察期間終了時(5年)に50%以上の対象が生存(イベント非発生)しているので、生存時間中央値およびその95%信頼区間は求めることができません。

 それでは、ここで簡単に統計学的仮説検定とp値の考え方について解説します。

 統計学的仮説検定は論理学の背理法に基づいて進めて行きます。ここでのわれわれの仮説、「低たんぱく食厳格遵守と低たんぱく食非厳格遵守で、末期腎不全の発症率に差がある」を検証する場合、次のように考えます。

 まず、検証したい仮説の否定を考え、「低たんぱく食厳格遵守と低たんぱく食非厳格遵守で、末期腎不全の発症率に差がない」、とします。これを帰無仮説(差なし仮説)と言います。

 p値のpはprobabilityのpでまさに確率であり、0から1の値をとります。p値とは、帰無仮説が正しいと仮定したときに、実際に標本から得られたデータ以上に帰無仮説から離れたデータが得られる確率を表した値、のことです。p値が非常に小さな場合、帰無仮説が誤っている(帰無仮説を棄却)とし、統計学的有意差がある、と判断します。統計学的に有意であると判断する基準を有意水準と言いますが、一般的には0.05(5%)に設定されます。これは5%未満の誤りであれば許容できる、という一般的な感覚から慣習で決められた数値です。

 統計学的仮説検定の手法は扱うデータ(変数)の型によって異なります。ここで扱う生存時間、生存時間曲線の比較では一般的にLog-rank検定が用いられることが多いです。

 さて、低たんぱく食厳格遵守群(Treat=1)と低たんぱく食非厳格遵守群(Treat=0)の生存時間曲線の比較検定(Log-rank検定)のp値は0.0657と有意水準0.05を上回っていました。したがって、「低たんぱく食厳格遵守と低たんぱく食非厳格遵守で、末期腎不全の発症率に差がない」という帰無仮説は棄却できません。さらに言うと、統計学的に有意差はないものの、生存時間曲線の見た目からは低たんぱく食厳格遵守群(Treat=1)より低たんぱく食非厳格遵守群(Treat=0)の方が予後が良さそうにも見えます。

 生存時間曲線の比較検定(Log-rank検定)の結果からは、われわれの仮説に沿った解析結果が得られませんでした。ここで研究は終了(継続断念)でしょうか。次回からは、観察研究においてExposure(曝露要因)とOutcome(アウトカム)の関連や因果関係を歪める「交絡(因子)」について解説します。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学医学部衛生学・公衆衛生学講座/内科学講座腎臓内科学部門 兼担教授

福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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海外研修留学便り【米国留学記(寺田 満雄氏)】第2回

[レポーター紹介 ]
寺田 満雄(てらだ みつお)

2013年  3月 名古屋市立大学医学部医学科 卒業
2013年  4月    蒲郡市民病院(臨床研修医)
2015年  4月    名古屋市立西部医療センター 外科(外科レジデント)
2017年  4月    愛知県がんセンター 乳腺科(レジデント)
2019年  4月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(臨床研究医)
                       名古屋市立大学大学院 医学研究科 博士課程
2019年  6月    名古屋大学 分子細胞免疫学 (特別研究員)(上記と兼務)
2022年10月  名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(病院助教)
2023年  8月    Department of Medicine and UPMC Hillman Cancer Center
                       (Post-doctoral associate)
2023年  9月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(研究員)(上記と兼務)

ほぼ全例で網羅的解析を実施、日本との違いを感じる研究環境

 私の所属している研究室は、臨床試験のTranslational research(TR)を得意としています。PIのHassane先生は皮膚科の臨床医でもあり、自施設を中心に行っている医師主導治験の検体をそのまま自分のラボで処理・解析するスタイルが確立されています。毎日のように臨床試験に参加している患者さんからの検体がラボに届きます。検体は血液サンプル、生検や手術の腫瘍検体、便検体が主です。とくに腫瘍検体に関しては、ほぼ全例をシングルセルRNAシークエンス(scRNA-seqもしくはCITE-seq)の解析に回し、網羅的な解析を行っています。また、同時に腫瘍のFFPEサンプルも保存し、多重免疫染色やVISIUM(空間的遺伝子発現解析)も行うことで、空間的な腫瘍環境の解析を網羅的に行っています。

 これらの網羅的解析は、もちろんかなり高額ではありますが、非常に多くの情報量を研究者に与えてくれます。日本では慎重に適応を検討していた高額な解析を、息をするように行う日々に感覚が麻痺しそうです。もちろんTR含め、研究では仮説をもとに計画を立てることが大切であることは言うまでもないことですが、極端な話、今の世界のレベルでは、網羅的な解析を行えば解決してしまうような仮説は「仮説を立てる」の内に入らないのかもしれないな…と感じています。アイデア勝負でこれに太刀打ちし続けることは容易ではありませんので、今は良い経験をさせてもらっていると感じると同時に、危機感を覚えているのも正直な気持ちです。

現在取り組んでいるプロジェクトは

 私自身が担当しているプロジェクトは現在2つです。それぞれ具体的な内容に言及することはできませんが、1つは当研究室でPublishした研究を深掘りするマウス実験が中心のプロジェクト、もう1つは、メラノーマに対して行われた術前化学療法CMP-001(TLR9アゴニスト)+抗PD-1抗体併用療法の作用メカニズムを解明するプロジェクトです。

 前者は、ターゲットとしている遺伝子が明確にあり、その遺伝子のノックアウトマウスおよびコンディショナルノックアウトマウスモデルを用いて研究を行っています。後者は、前述した網羅的な解析からでてきた仮説を検証するプロジェクトです。よく考えれば当たり前のことではありますが、論文が世に出るタイミングでは、それをもとにした「次の研究」はすでに始まっています。もちろんこれらを形にすることは容易ではなく、タフな仕事ではあるのですが、いかに自分たちだけが抱えているオリジナリティのある研究テーマを先行して進めていくかが大切であることを実感します。

  


バックナンバー

第1回: 乳腺外科医の自分がメラノーマのTRに強い研究室へ留学を決めた理由
第2回:ほぼ全例で網羅的解析を実施、日本との違いを感じる研究環境
第3回:ラボでの分業、実際どうやっている?
第4回:夏休みは1ヵ月取得。でも結果を出している人はハードワーク

何はさておき記述統計 その4【「実践的」臨床研究入門】第43回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

仮想データ・セットを用いてKaplan-Meier曲線を描いてみる

 前々回は簡単なエクセル関数を使って仮想データ・セットから発生率を計算し、前回は手計算によるKaplan-Meier曲線の描き方を説明しました。今回は、いよいよ仮想データ・セットを用いて実際にKaplan-Meier曲線を描いてみます。

 今後、実際の統計解析手法については無料の統計解析ソフトであるEZR(Eazy R)の操作手順を交えて解説していきます。まずはEZRの概要とそのインストール方法について簡単に説明します。

 EZRは自治医科大学附属さいたま医療センター血液科の神田 善伸先生が無料統計解析ソフトRに基づいて開発されました。RはR言語というプログラミング言語(スクリプト)を入力しないと動かせないというのが、統計解析初心者にとって最大の障壁になっています。しかし、EZRではマウスなどのポインティングデバイス操作だけで基本的な統計解析を行うことができるgraphic user interfaceを採用しており、ユーザーフレンドリーな統計解析ソフトです。EZRのダウンロードとインストールについては、自治医科大学附属さいたま医療センター血液科のホームページにアクセスし、説明のとおりに行ってください。

 それでは、早速仮想データ・セットからEZRを用いてKaplan-Meier曲線を描いてみましょう。

 仮想データ・セットをダウンロードする

 まずは、Kaplan-Meier曲線の描出に必要なデータを整理し準備します。必要となるデータは以下の3つになります。

・比較する群のデータ
・イベント(アウトカム発生)か打ち切りのデータ
・生存時間(観察期間)のデータ

 これらは、下記に示した仮想データ・セットのB、C、D列にそれぞれ相当します(連載第41回参照)。

・A列:ID
・B列:Treat(1;低たんぱく食厳格遵守群、0;低たんぱく食非厳格遵守群)
・C列:Censor(1;アウトカム発生、0;打ち切り)
・D列:Year(at riskな観察期間)

 次に、インストールしたEZRを起動し、以下の手順で仮想データ・セットを取り込みましょう。

「ファイル」→「データのインポート」→「Excelのデータをインポート」

 仮想データ・セットがインポートできたことを確認したら、下記の手順でKaplan-Meier曲線を作成します。

「統計解析」→「生存時間の解析」→「生存曲線の記述と群間の比較(Logrank検定)」を選択。

 すると、下記のウィンドウが開きますので、以下のとおりにそれぞれ変数を選択します。

・観察期間の変数 ⇒ Year
・イベント(1)、打ち切り(0)の変数 ⇒ Censor
・群別する変数を選択 ⇒ Treat

 その他はとりあえずデフォルト設定のままで結構です。

 変数選択と設定が完了したら、「OK」ボタンをクリックしましょう。

 図のようなKaplan-Meier曲線が描けたでしょうか。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学医学部衛生学・公衆衛生学講座/内科学講座腎臓内科学部門 兼担教授

福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

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39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

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33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

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5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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海外研修留学便り【米国留学記(寺田 満雄氏)】第1回

[レポーター紹介 ]
寺田 満雄(てらだ みつお)

2013年  3月 名古屋市立大学医学部医学科 卒業
2013年  4月    蒲郡市民病院(臨床研修医)
2015年  4月    名古屋市立西部医療センター 外科(外科レジデント)
2017年  4月    愛知県がんセンター 乳腺科(レジデント)
2019年  4月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(臨床研究医)
                       名古屋市立大学大学院 医学研究科 博士課程
2019年  6月    名古屋大学 分子細胞免疫学 (特別研究員)(上記と兼務)
2022年10月  名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(病院助教)
2023年  8月    Department of Medicine and UPMC Hillman Cancer Center
                       (Post-doctoral associate)
2023年  9月    名古屋市立大学大学院 医学研究科 乳腺外科学分野(研究員)(上記と兼務)

乳腺外科医の自分がメラノーマのTRに強い研究室へ留学を決めた理由

 私は現在、2023年よりUPMC (University of Pittsburgh Medical Center)Hillman Cancer CenterのHassane M. Zarour 教授の研究室でポスドク生活を送っています。少しでもお役に立てるよう、できるだけ赤裸々に綴りたいと思います。

 留学前、大学院への進学と同時に名古屋大学の西川研に在籍して腫瘍免疫の研究をしていました。元々は臨床研究がやりたかったため、大学院で基礎研究をやることになった時は、正直、複雑な気持ちもありました。しかし、そこでは免疫学の基本から、臨床検体を用いたTranslational Research (TR)まで多くを学ぶ機会があり、TRに興味を持つことになった大きなきっかけでした。

 

 いつか留学してみたい、とは考えていて(動機に中身がなくてお恥ずかしいですが)、博士課程が終わり、このタイミングを逃したら難しいかな…と少し諦めていた時、西川教授から今の留学先への打診をいただきました。メラノーマのTRに力をいれている研究室です。ポスドクの引き継ぎを探しているとのことで、非常に魅力的なお誘いでした。乳腺外科医である私としては、乳がんの研究をしたいという気持ちがなかったと言えば嘘になりますが、またとないチャンスに、迷いなくお願いしました。これが2023年3月上旬の出来事で、その時「ボスが来週のJSMOで来日するから、会ってみる?」とお誘いをいただきましたが、当直業務のため断念。その後、3月下旬に留学先のボスとの初Webミーティングを経て正式に決まりました。「Yoshi(西川教授)のラボならWelcome」という感じで、少し話をして受け入れの許可をいただき、一瞬で自分の人生が大きく動いた感覚がしました。”上”は”上”で繋がっている…ということを改めて感じた瞬間でもあります。

 実は、それまでもいくつか留学先の打診をいただいたりしていたのですが、種々の理由でご縁がありませんでした。時に、自分で直接ラボにCVを送って連絡をしてみたこともありました。返事があることもあれば、たいてい返事はありません。有名なラボには、頻繁にそのようなメールが来るようです。身も蓋もない話ですが、ちゃんとしたポストで留学するために大事なのは、タイミングとコネだと思います。ポストや予算的にも先方にとって都合がいいタイミングはそう多くはないのだろうと思います。

留学準備の“ライフハック”

 前任者が8月末で退職予定だったため、研究の引き継ぎ期間も含めて約4ヵ月で渡米の準備をする必要があり、本当に大変でした。留学準備ライフハックについては、書き出せばいくらでも記事は書くことができそうですが、ここではかいつまんで紹介します。

J-1 VISA:DS-2019という受け入れ施設から発行される書類がボトルネックになります。これがないとVISAの申請はできません。催促メール – 相手の言い訳メール – ボスをCCに含めて催促メールを繰り返し、最終的にギリギリでボスが事務に怒って、その後一瞬で発行されました。ボスをCCに入れる、がライフハック。最終的にVISAは、渡米の2週間前に揃いました。

アメリカでの住居と車:ピッツバーグに日本人が多く住むアパートがあり、そこの方に紹介いただき日本にいる間に住居と車は契約して渡米しました。電気の契約では、アメリカ名物たらい回し無限ループにハマり、キレそうになったこともありましたが、なんとか契約。

日本の住居:持ち家だったため、留学中にローンも払う財政的余裕はなく、定期借家で貸し出すことに(定期借家は相場よりも安く貸さなくてはならないのですが、背に腹はかえられぬということで…)。

 そのほか、業務引き継ぎ、大学指定の英語資格試験、家財道具処分・実家への輸送、アメリカでの送金方法、保険、携帯電話、インターネット、予防接種、転出届、郵便転送届、各種連絡先変更…etc. あっという間に準備期間の4ヵ月は過ぎ、家族5人(妻、7歳、5歳、2歳)でスーツケース+プラスチックコンテナ 計6個とともにピッツバーグへ向かいました。

  


バックナンバー

第1回: 乳腺外科医の自分がメラノーマのTRに強い研究室へ留学を決めた理由
第2回:ほぼ全例で網羅的解析を実施、日本との違いを感じる研究環境
第3回:ラボでの分業、実際どうやっている?
第4回:夏休みは1ヵ月取得。でも結果を出している人はハードワーク

何はさておき記述統計 その3【「実践的」臨床研究入門】第42回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 

生存時間と生存時間曲線

 はじめに生存時間とは何かについて説明します。臨床研究におけるアウトカム指標として、生存時間は最も重要なものの1つです。悪性腫瘍だけでなく臓器不全にいたるすべての疾患は、最終的には死亡という転帰を迎えます。多くの場合、死亡というアウトカム(イベント)が発生するまでの時間の長さがどの程度であるか、が最も重要となります。なお、生存時間とは死亡にいたるまでの時間だけでなく、あるイベント発生までの時間を示すこともあります。

 臨床研究においてはKaplan-Meier法による生存率の計算が行われることが一般的です。ここでは、Kaplan-Meier曲線の描き方について具体的に解説します。Kaplan-Meier法では、新たにイベントが発生するごとに生存率が繰り返し再計算されます。これまで説明してきた「打ち切り」という事象も考慮しながら(連載第37回第41回参照)、逆にある時点までイベントを発生しない確率を考えてみるのです。別の言い方をすれば、ある時点までイベントを発生しない確率を生存割合として、グラフに表示していくことを考えていきます。

 図に示したように、たとえば10人の患者の生存割合を12ヵ月にわたって観察した場合を考えてみます。

 1ヵ月目までは全員生存していたとすると、生存割合は1(100%)となり、Kaplan-Meier曲線は下がりません。

 1ヵ月目に1人死亡したとします。10人中9人が生存しているので、1ヵ月目の生存割合は、9/10=0.90(90%)となり、グラフに示すと図に示したようになります。

 3ヵ月目にもう1人死亡したとします。1ヵ月目までに生存割合が9/10=0.90に下がっています。3ヵ月目の時点では9人中8人が生存しているので、この時点での生存割合は、9/10×8/9=0.80(80%)となりグラフにすると図に示したとおりです。

 次に、5ヵ月目に1人「打ち切り」になったとします。この時点で残っている人数は8人ですが、この時点では誰も死亡していないので5ヵ月目の生存割合は、3ヵ月目と変わらず0.80(80%)となり、Kaplan-Meier曲線も下がりません。「打ち切り」があったことを示す「しるし」として、Kaplan-Meier曲線上に小さな縦棒を表示することが慣例とされており、一般的にこれを「ヒゲ」と呼びます。

 6ヵ月目、7ヵ月目にもそれぞれ1人ずつ「打ち切り」があったとします。6ヵ月目まで残っている人数は7人、7ヵ月目まで残っている人数は6人ですが、3ヵ月目以降は誰も死亡していないので6ヵ月目、7ヵ月目の生存割合は5ヵ月目までと変わらず0.80(80%)となり、Kaplan-Meier曲線も下がりません。

 9ヵ月目に1人死亡したとすると、この時点では5人中4人が生存していることになりますので、7ヵ月目までの生存割合0.80に4/5をかけて、9ヵ月目の生存割合は0.64(64%)となります。

 11ヵ月目には更に1人死亡したとします。この時点では4人中3人が生存していることになりますので、9ヵ月目までの生存割合0.64(64%)に3/4をかけて、11ヵ月目の生存割合は0.48(48%)となります。

 ここまでお示ししたように、イベントが発生するたびに、その時点までに残っていた人数を分母にして、生存割合の低下を計算することにより、「打ち切り」を考慮した解析を行うことができるのです。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学臨床疫学研究所 所長・教授
昭和大学医学部衛生学・公衆衛生学講座/内科学講座腎臓内科学部門 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

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10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

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4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

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2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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海外研修留学便り【番外編(山内 英子氏)】後編

[ レポーター紹介 ]
山内 英子やまうち ひでこ

1987年 順天堂大学医学部卒業
1987年 聖路加国際病院外科レジデント
1993年 聖路加国際病院外科医員
1994年 Dana-Farberがん研究所研究助手
1996年 Georgetwon大学Lombardiがんセンター研究フェロー/助手
2001年 Hawaii大学外科レジデント
2004年 Hawaii大学外科チーフレジデント
2005年 Hawaii大学外科集中治療学臨床フェロー
2007年 Moffittがんセンター/South Florida大学臨床フェロー
2009年 聖路加国際病院乳腺外科医長
2010年 聖路加国際病院乳腺外科部長、ブレストセンター長
2017年 聖路加国際病院副院長
2021年 聖路加国際病院理事
2023年 国立がん研究センター理事
     Hawaii大学がんセンター教授/Hawaiiクイーンズメディカルセンター乳腺外科医

聖路加国際病院などでのキャリアを経て、2023年より以前留学していたハワイ大学に再び拠点を移した山内 英子先生に、これまでのご自身の経歴や現在携わっている研究・現地での診療について前後編でレポートいただきます。後編ではハワイでの外科手術の状況や医師の働き方について伺いました。

 

後編:ハワイでの乳がん手術の状況・医師の働き方

 

 前編はこちら


海外研修留学便り【番外編(山内 英子氏)】前編

[ レポーター紹介 ]
山内 英子やまうち ひでこ

1987年 順天堂大学医学部卒業
1987年 聖路加国際病院外科レジデント
1993年 聖路加国際病院外科医員
1994年 Dana-Farberがん研究所研究助手
1996年 Georgetwon大学Lombardiがんセンター研究フェロー/助手
2001年 Hawaii大学外科レジデント
2004年 Hawaii大学外科チーフレジデント
2005年 Hawaii大学外科集中治療学臨床フェロー
2007年 Moffittがんセンター/South Florida大学臨床フェロー
2009年 聖路加国際病院乳腺外科医長
2010年 聖路加国際病院乳腺外科部長、ブレストセンター長
2017年 聖路加国際病院副院長
2021年 聖路加国際病院理事
2023年 国立がん研究センター理事
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聖路加国際病院などでのキャリアを経て、2023年より以前留学していたハワイ大学に再び拠点を移した山内 英子先生に、これまでのご自身の経歴や現在携わっている研究・現地での診療について前後編でレポートいただきます。前編では今回ハワイ大学に移られた経緯や、現地での乳がん診療の状況について伺いました。

 

前編:なぜハワイ大学に? ハワイでの乳がん診療のいま

 

後編はこちら


何はさておき記述統計 その2【「実践的」臨床研究入門】第41回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

仮想データ・セットを用いて発生率を計算してみる

 今回は早速、仮想データ・セットを用いて、われわれのRQのプライマリアウトカムである末期腎不全の発生率を実際に計算してみましょう。はじめに、今回提供する仮想データ・セットの内容について説明します(仮想データ・セット[エクセルファイル]は下記よりダウンロード可能です)。

 仮想データ・セットをダウンロードする

※ダウンロードできない場合は、右クリックして「名前をつけてリンク先を保存」を選択してください。

・A列:ID
・B列:Treat(1;低たんぱく食厳格遵守群、0;低たんぱく食非厳格遵守群)
・C列:Censor(1;アウトカム発生、0;打ち切り)
・D列:Year(at riskな観察期間)

 Treatという変数を作り、推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満というE(曝露要因)の定義を満たすか否かで(連載第40回参照)、低たんぱく食厳格遵守群、低たんぱく食非厳格遵守群の2群に分類しています。変数Censorには、アウトカム発生を1、打ち切りを0として観察期間内でのアウトカム発生の有無の情報が入力してあります(連載第37回第40回参照)。人年法による発生率の計算式は下記のとおりでした(連載第37回第40回参照)。

発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計

 まず分子であるアウトカム発生数を、解析対象集団全体および、低たんぱく食厳格遵守群、低たんぱく食非厳格遵守群、それぞれで計算します。Excel関数のSUMおよびSUMIFを使用します。合計を算出するSUM(合計範囲)を用いた以下の式で、解析対象集団全体のアウトカム発生数が計算されます。

・=SUM(C:C)

 また、検索範囲におけるある条件を満たす合計を算出するSUMIF(検索範囲、検索条件、合計範囲)を用いた以下の式で、低たんぱく食厳格遵守群、低たんぱく食非厳格遵守群、それぞれの群でのアウトカム発生数が計算できます。

・=SUMIF(B:B、1、C:C)
・=SUMIF(B:B、0、C:C)

 計算の結果、アウトカム発生数はそれぞれ以下のとおりになります。

・解析対象集団全体 185イベント
・低たんぱく食厳格遵守群 70イベント
・低たんぱく食非厳格遵守群 115イベント

 次に、分母となるat risk集団の観察期間の合計を解析対象集団全体および、低たんぱく食厳格遵守群、低たんぱく食非厳格遵守群でそれぞれ計算しましょう。同様にSUM、SUMIF関数を用います。

・=SUM(D:D)
・=SUMIF(B:B、1、D:D)
・=SUMIF(B:B、0、D:D)

 at risk集団の観察期間の合計(小数点第1位表示)はそれぞれ以下のとおりになったでしょうか。

・解析対象集団全体 2476.4人年
・低たんぱく食厳格遵守群 776.0人年
・低たんぱく食非厳格遵守群 1700.4人年

 それでは上述した発生率の式に1,000を掛けて、1,000人年当たりの発生率をそれぞれの集団で求めてみましょう。

・解析対象集団全体 74.7イベント/1,000人年
・低たんぱく食厳格遵守群 90.2イベント/1,000人年
・低たんぱく食非厳格遵守群 67.6イベント/1,000人年

 次回からは生存時間曲線の比較について、筆者らが出版した英文臨床研究論文の実例や、仮想データ・セットを用いた実際の統計解析方法を解説します。


講師紹介

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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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何はさておき記述統計 その1【「実践的」臨床研究入門】第40回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

いきなり!多変量解析?

 臨床研究における統計解析というと、みなさんはいきなり多変量解析を行ったり、臨床研究といえば多変量解析というようなイメージを持っていないでしょうか。重回帰分析、ロジスティック回帰分析、Cox回帰分析などの多変量解析のさまざまな手法を用いたことがある方や、学会などでこれらの統計解析手法を聞いたこと、論文で目にしたことがある方は多いでしょう。しかし、統計解析手法を正しく選択するためには、変数やアウトカム指標の型をよく知ることが必要となります。また、いきなり多変量解析に飛びつく前に、まずは変数やアウトカム指標の型を意識して正しく記述すること(記述統計)が重要です。

 今回からは、具体的な統計解析手法について、筆者らが行い英文論文化された臨床研究の実例などを引用して解説します。また、架空の臨床シナリオを元に立案したClinical Question(CQ)とResearch Question(RQ)に基づいた仮想データ・セットを用いて、統計解析の実際についても実践的に説明したいと思います。

 まずはここで、これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQの研究デザイン、セッティング、およびPECOについて整理します。

CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうか
D(研究デザイン):(後ろ向き)コホート研究
S(セッティング):単施設外来
P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者
組み入れ基準:診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者
除外基準:ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者
E(曝露要因):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満
C(比較対照):推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上
*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出
O(アウトカム):1)末期腎不全(慢性透析療法への導入もしくは先行的腎移植)
*打ち切り(末期腎不全発症前の死亡、転院、研究参加同意撤回などによる研究からの離脱)
2)糸球体濾過量(GFR)低下速度

 われわれのRQのプライマリアウトカムは末期腎不全であり、アウトカム指標はその発生率となります。発生率は下記の計算式で求められるのでした(連載第37回参照)。

発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計

 実際の臨床研究論文では、発生率は人年法という手法を用いて、1,000人を1年間観察すると(1,000人年)何件アウトカム(イベント)が発生したか、という形式で記述されることが多いです。

 以下に、筆者らが2023年に出版した臨床研究論文2)の実際の記述を示します。CKD患者において血清鉄代謝マーカーの1つであるトランスフェリン飽和度(TSAT)レベルと心血管疾患(CVD)およびうっ血性心不全(CHF)の発生リスクの関連を検討した論文です。Resultsの”Incidence of outcome measures”という小見出しで以下のように記載しました。

“Supplementary Fig. S1 shows the incidence rates of CVD and CHF events based on serum TSAT levels. The overall incidence rates of CVD and CHF in the analysed participants were 26.7 and 12.0 events/1000 person-year, respectively. Participants with TSAT <20% had the highest incidence rates of CVD and CHF (33.9 and 16.5 events/1000 person-year, respectively). Conversely, the incidence rates of CVD and CHF were lowest in those with TSAT >40% (17.2 and 6.2 events/1000 person-year, respectively).”

「補足図S1は、血清TSAT値に基づくCVDおよびCHFイベントの発生率を示している。全解析対象者におけるCVDおよびCHFの発生率は、それぞれ26.7および12.0イベント/1,000人年であった。TSATが20%未満の参加者でCVDおよびCHFの発生率が最も高かった(それぞれ33.9と16.5イベント/1,000人年)。一方、CVDとCHFの発症率はTSATが40%以上の患者で最も低かった(それぞれ17.2および6.2イベント/1,000人年)。(筆者による意訳)」

 この論文記載のポイントは、血清TSAT値20%未満(診療ガイドライン3)で鉄補充療法開始が推奨される基準値)のCKD患者において、CVDおよびCHFの発症率が最も高い、という記述統計の結果がまず示されたということです。

 次回からは仮想データ・セットを用いて、具体的な統計解析方法についても解説をしていきます。


【 引用文献 】

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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
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1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)レポート

[ レポーター紹介 ]
akihiko_shimomura
下村  昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科  


 

 新年早々暗いニュースが続いた2024年であるが、毎年恒例のSan Antonio Breast Cancer Symposiumレポートをお送りする。2023年12月5日から12月9日まで5日間にわたり、SABCS2023がハイブリッド形式で実施された。COVID – 19が5類となりさまざまな制約がなくなったこともあってか、日本からも多くの乳がん専門医が参加していた。私も現地で参加、発表させていただいた。学会外での会議や勉強会なども以前と同様実施されていた。以前との違いは、会議なども基本はハイブリッドで行われるようになったことであろうか。集合形式は活発なディスカッションができるものの、どうしても都合がつかない場合もある。ハイブリッド形式が会議を最大限に充実させる形式なのかもしれない。

 SABCS2023では日常臨床にインパクトを与える、あるいは今後の治療開発において重要な試験がいくつも発表された。多くの演題の中から、転移乳がんに対する演題を4つ紹介する。

MONARCH3試験

 MONARCH3試験は、閉経後ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)転移乳がんの1次治療におけるアロマターゼ阻害薬へのアベマシクリブの有効性を評価した試験である。アベマシクリブの上乗せは無増悪生存期間(PFS)を統計学的有意に延長し、すでに実臨床では1次治療でも積極的に使用されている。今回は待望の全生存期間(OS)の結果が公表された。

 ITT集団におけるOS中央値は、アベマシクリブ群で66.8ヵ月、プラセボ群で53.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.804、95%信頼区間[CI]:0.637~1.015、p=0.0664)であり、p値は有意水準である0.034を上回り統計学的有意差は証明されなかった。内臓転移を有するサブグループにおけるOS中央値は、アベマシクリブ群で63.7ヵ月、プラセボ群で48.8ヵ月(HR:0.758、95%CI:0.558~1.030、p=0.0757)であり、こちらも統計学的有意差は示されなかった。

 数値としてアベマシクリブ群でOSが有効である期待は残されるものの、有意差がつかなかったということはかなり大きな衝撃であった。なお、後治療としてパルボシクリブを実施した患者はアベマシクリブ群で8%、プラセボ群で25%であり、この差がOSにどの程度インパクトを与えたかは今後の詳細な解析に期待したい。この結果により、世界的に広く用いられているパルボシクリブ、アベマシクリブ、ribociclibのうち、1次治療におけるOSがポジティブなのはribociclibだけとなった。すなわち、日本で処方可能なパルボシクリブ、アベマシクリブはいずれもOSにおけるベネフィットを示せなかったことになる。ただ、だからといってCDK4/6阻害薬をより後ろの治療で用いるべきものになるかというと、そうではない。alpelisib、capivasertibなどSERDとの併用で用いられる別の機序の分子標的薬、あるいはPADA-1試験のような、1次治療、2次治療でCDK4/6阻害薬をbeyondで用いる戦略など、2次治療にCDK4/6阻害薬を“とっておく”と実施できなくなる治療/治療戦略が多数開発されている。現在行われている試験の多くもCDK4/6阻害薬を原則として1次治療で用いることが前提となっており、HR+HER2-転移乳がんの治療シークエンスを考えるうえで、1次治療におけるCDK4/6阻害薬の併用は変わらずスタンダードであると言えよう。

INAVO120試験

 INAVO120試験はPIK3CA変異のあるHR+HER2-転移乳がんの2次治療において、フルベストラント+パルボシクリブによる治療にPI3K阻害薬であるinavolisibを併用することの有効性を評価した第III相試験である。本試験でPIK3CA変異はctDNAの中央判定もしくは各施設における組織/ctDNAの評価によって定義されていた。主要評価項目はPFSが設定された。325例がinavolisib群とプラセボ群に1:1に割り付けられた。両群間のバランスはよく、95%以上の症例で内臓転移を有した。

 主要評価項目のPFSはinavolisib群15.0ヵ月、プラセボ群7.3ヵ月(HR:0.43、95%CI:0.32~0.59、p<0.0001)とinavolisib群で有意に長かった。OSはHR:0.64、95%CI:0.43~0.97、p=0.0338とinavolisib群で良好な傾向を認めたが、中間解析に割り当てられた有意水準は超えなかった。G3以上の有害事象としては血小板減少(14.3% vs.4.3%)、口内炎(5.6% vs.0%)、貧血(6.2% vs.1.9%)、高血糖(5.6% vs.0%)、下痢(3.6% vs.16.0%)とinavolisib群で血液毒性、非血液毒性のいずれも増加した。 

 HR+HER2-乳がんの治療を考えるうえで、3剤併用療法が良いのか、2剤までの併用をシークエンスで使用していくのか、なかなか悩ましいところであるが、OSを延長する可能性が示されたことは大きなインパクトであった。これまでに実施された、あるいは現在進行中の2次治療以降の併用試験などの結果も踏まえた治療シークエンスの議論が必要であろう。また、残念ながら本剤は現在のところ国内では開発されていない。 

HER2CLIMB-02試験

 HER2CLIMB-02試験は、すでにHER2陽性(HER2+)転移乳がんの3次治療においてトラスツズマブ+カペシタビンとの併用の有効性が示されているtucatinibの、T-DM1との併用の有効性を検証した第III相試験である。トラスツズマブならびにタキサンによる治療歴のあるHER2+転移乳がん460例が、tucatinib群とプラセボ群に1:1に割り付けられた。主要評価項目はPFSであった。転移乳がんに対する前治療歴が1ラインの症例が64%、ペルツズマブの投与歴のある症例が約90%であった。

 主要評価項目のPFSはtucatinib群で9.5ヵ月、プラセボ群では7.4ヵ月(HR:0.76、95%CI:0.61~0.95、p=0.0163)とtucatinib群で有意に長かった。奏効割合は42.0% vs.36.1%とtucatinib群で良い傾向を認めた。tucatinibは脳転移に対する有効性が示されているが(HER2CLIMB試験)、本試験の脳転移を有する症例に対するPFSは7.8ヵ月vs.5.7ヵ月(HR:0.64、95%CI:0.46~0.89)とtucatinib群で良好な可能性が示された。OSはHR:1.23とtucatinib群で良い可能性は示されなかった。G3以上の有害事象の中で重要なものはAST増加(16.5% vs. 2.6%)、ALT増加(16.5% vs.2.6%)、倦怠感(6.1% vs.3.0%)、下痢(4.8% vs.0.9%)、悪心(3.5% vs.2.1%)などであった。

 tucatinibはT-DM1との併用における有効性を示したわけであるが、今後この試験結果を基にT-DM1+tucatinibがよりアップフロントに用いられるかというと疑問が残る。T-DXdの2次治療における有効性を証明したDESTINY Breast-03試験では、T-DXdのPFS中央値は28.8ヵ月である。試験間の比較で治療の優劣は付けられないが、かといってT-DXdよりもT-DM1+tucatinibを優先するのは難しい。今後はT-DXdによる治療歴のある患者に対するT-DM1+tucatinibのデータを創出することが必要であろう。

JCOG1607試験

 JCOG1607 HERB TEA試験は、JCOGで行われた高齢者HER2+転移乳がん1次治療における、T-DM1のペルツズマブ+トラスツズマブ+ドセタキセル(HPD)療法への非劣性を検証した第III相試験である。不肖下村が、今回から新設されたRapid Fire Mini Oral Sessionで(なんとメイン会場で)発表させていただいた。本試験は、65歳以上の高齢者HER2+転移乳がんを対象に、OSを主要評価項目として実施された。250例の予定登録数で行われたが、148例が登録された時点で実施された1回目の中間解析で、OSハザード比の点推定値が非劣性マージンの1.35を超えたため無効中止となった。患者背景は両群間でバランスが取れており、年齢の中央値は71歳ならびに72歳、75歳以上が約35%を占めた。PS 0が75%、HR+が約半数、初発StageIVが65%、脳転移を有する症例はまれであり、内臓転移は65%に認められた。

 主要評価項目のOSは両群ともに中央値に到達しなかったが、HR:1.263、95%CI:0.677~2.357、p=0.95322とT-DM1のHPD療法に対する非劣性は示されなかった。PFSはHPD療法で15.6ヵ月、T-DM1で11.3ヵ月(HR:0.358、 95%CI:0.907~2.033、p=0.1236)とHPDで良い傾向を認めた。有害事象はG3以上がHPD療法で多く(56.8% vs.34.7%)、HPD療法では白血球減少(26.0% vs.0%)、好中球減少(30.1% vs. 0%)、倦怠感(21.6% vs.5.6%)、下痢(12.2% vs.0%)、食欲低下(10.8% vs.8.3%)が多く、T-DM1療法では血小板減少(0% vs.16.7%)、AST増加(0% vs.15.3%)、ALT増加(2.7% vs.16.7%)が多かった。

 本試験は高齢者に対するless toxicな治療の開発を期待して開始したが、高齢者においてもpivotal studyで示された標準治療を実施すべきという結論となった。一方、高齢者は年齢のみで定義される均一な集団ではなく、ASCOガイドラインなどで示されているように、高齢者機能評価などを適切に実施したうえで治療方針を決めていくことが重要である。今後より詳細な結果を発表していきたい。


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