リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第39回

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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

C(比較対照)をおかなければ因果関係(影響や効果など)はわからない

 まずは、よくある? CMのお話です。 ◯◯サプリメントを飲み続けてやせた人の経験談をもとに、

◯◯サプリメントを飲んだ! やせた! ◯◯サプリメントはダイエットに効いた!? 「※個人の感想です」

 誰もが「眉唾」な話、と思うのではないでしょうか。なぜなら、ダイエットに成功したのは、サプリメント(だけ)ではなく、食事制限や運動などによる効果の結果かもしれないからです。

 このような3段論法まがいの誤った論理展開を、(雨乞い)3「た」論法、と呼びます。これは、東京医科歯科大学名誉教授(臨床薬理学・生物統計学)であられた故佐久間 昭先生が著書で述べられた、以下の文章に由来するようです。

雨乞いの太鼓を叩いた、雨が降った、故に雨乞いの太鼓が雨を降らせた?

 雨乞いの太鼓は雨が降るまで続けられるでしょうし、降り止まない雨はありませんよね。したがって、雨乞いの太鼓と降雨に因果関係があると言うのは問題がある、とすることには異論はないでしょう。

 臨床現場における薬剤などの治療効果判定でも同じです。なんらかの疾患(症状)に、ある薬剤を投与し、効果? がみられたケースだけを取り上げて、単純に「使った、治った、効いた」とするのも、また3「た」論法です。C(比較対照)をおかなければ、E(曝露要因)もしくはI(介入)とO(アウトカム)との関連や因果関係(影響や効果)は検証できないのです。

 それでは、理想的なCとはどのようなものでしょうか。理想的なC、比較対照群とは、臨床研究でOとの関連や因果関係(影響や効果)を検証したいEもしくはI以外の「背景要因」がまったく同じ集団、となります。「背景要因」は測定可能なものと測定できないものに分けられます。

 測定可能な背景要因には、臨床研究論文のTabel 1.でよく記述されている以下のような要因が挙げられます。

年齢、性別、併存疾患、BMI、各種検査所見、等々

 一方、背景要因には、日常臨床では測定不可能なものも多々あります。たとえば、以下のような要因です。

遺伝的背景、生活習慣、社会経済因子、等々

 理想的なC、比較対照群を設定するためには「ドラえもん」のひみつ道具のひとつである「コピーロボット」が必要だよね、と筆者はよく説明しています。「コピーロボット」はその鼻を押すことで、押した人間(動物)とそっくりなコピーとなるロボットです。「ドラえもん」どんぴしゃり世代の筆者にとっては、わかり易い説明だと思っているのですが、最近の若い方にはピンとこないかもしれません…。

 今のところ「コピーロボット」が存在しないこの世の中では、同じ個人が「同時にあるE」もしくは「Iがあった場合となかった場合」を比較することはできません(反事実モデル)。ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)では、ランダム(無作為)割付により、IとCの間の背景要因が測定可能なものだけでなく測定不可能なものも均衡化することが期待され、反事実モデルを推定しているのです(連載第6回参照)。

 われわれが計画しているのは観察研究のひとつである(後ろ向き)コホート研究です(連載第37回参照)。観察研究でも、皆さんが大好きな多変量解析やマッチングなどの手法を用いてRCTと同様に、反事実モデルの推定を試みています。言い換えると、多変量解析モデルなどの統計学的手法を用いて、いわゆる「交絡因子」を制御し、EとOとの関連や因果関係を検証しているのです。

 次回からは、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、具体的な統計解析手法についても解説していきます。


講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

44. 何はさておき記述統計 その5

43. 何はさておき記述統計 その4

42. 何はさておき記述統計 その3

41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

12. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用その1

11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

10. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その1

9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

8. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その2

7. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その1

6. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その3

5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

3. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビューその2

2. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー その1

1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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海外研修留学便り(続編) 【米国就職記(藤井 健夫氏)】第2回

[ レポーター紹介 ]
藤井 健夫(ふじい たけお )

2007年     信州大学医学部卒業
2007-2008年 在沖縄米国海軍病院インターン
2008-2010年 聖路加国際病院初期研修
2010-2013年 聖路加国際病院内科後期研修、チーフレジデント、腫瘍内科専門研修
2013-2015年 MPH, University of Texas School of Public Health/Graduate Research Assistant, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Breast Medical Oncology
2015-2016年 Clinical Fellow, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Investigational Cancer Therapeutics (Phase I clinical trial department)
2016-2019年 Internal Medicine Resident, University of Hawaii/Research Fellow, University of Hawaii Cancer Center (Ramos Lab)
2019-2022年 Medical Oncology Fellow (Translational Research Track), Cold Spring Harbor Laboratory (Egeblad Lab)/Northwell Health Cancer Institute
2022年-現在 Assistant Clinical Investigator, Women’s Malignancies Branch, National Cancer Institute (NCI), National Institutes of Health (NIH)/ Attending physician, NIH Clinical Center

 

第2回:Physician-Scientist Facultyとしての日々

 前回、アメリカでのFacultyポジション獲得のための就職活動について紹介しました。米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)には、研究経験があり面白いアイデアを持ったPhysician-Scientistに対して、より大きなラボを持って将来のTenure獲得に向けての研究実績を積む期間(最低3年~最高5年間)、ラボスペースや研究資金、ラボスタッフ(ポスドクなど)の採用資金をサポートするシステムがあり、第1回で述べたようにFacultyの就職活動時に十分な研究資金を持っていなかった私ではありましたが、米国国立がん研究所(National Cancer Center:NCI)のFacultyとして働いています。

 臨床のFacultyの場合、何人を診療したか、どれくらいの売上であったかなどの臨床的な貢献で評価されますが、私の評価はそうではなく研究実績であることがこのプログラムの最もユニークな部分です。研究実績がすべてですので、当然どんなに「頑張って」いても結果が出なければ契約の更新は期待できません。私の場合、月曜日がNIH Clinical Center(NIH内の病院)の外来日となっていますが、クリニカルトライアルとセカンドオピニオンのみの外来(NIHでは標準治療は例外を除いて行っていない)であり、1日で診療する患者数は非常に限られています。

 NIH Clinical Center外来の非常にユニークな点は、患者さんの金銭的負担がまったくないことです。NIHで研究目的で行われるすべての診療(診察、血液・画像検査、投薬など)が無料で、さらに遠方からクリニカルトライアルに参加する人には旅費や宿泊費のサポートもあります。NIHは政府機関ですので、当然この形で診療を行うための予算の合意がなされています。

 外来での診療の流れは通常の病院での診療とよく似たものです。患者さんがチェックインすると、まずHematology/Oncologyの臨床フェローもしくはNurse Practitioner(NP)が患者さんの情報を集め、話を聞き、診察をします。指導医であるわれわれは、フェローもしくはNPから患者さんについてのプレゼンテーションを受け、それぞれの症例や治療経過を振り返りながら教育を行います。ディスカッションが終了したら一緒に患者さんを診察して、患者さんやご家族と治療方針や検査方針の話をして、質問に答えて診察終了となります。

 臨床以外の時間はすべて自身のラボでの研究に関連した仕事を行っています。Physician-Scientistとしての仕事内容は大きく分けて以下の3つです。(1)研究プロジェクトや研究データの構築、(2)研究資金の調達、(3)若手の医師や研究者の教育です。(1)に関しては、手を動かして研究を行い、データを出していくことになるのですが、私のようなラボを立ち上げたばかりのPhysician-Scientistの場合、ポスドクだけではなくPrincipal Investigator(PI)である私自身も実際に手を動かして実験を行うことが多いです。実際の実験に加えて、自身の専門エリア外のことや自身で持っていない実験手技などを組み合わせるためにCollaboratorとなるPIとのミーティングをして議論をしたり、新たな薬剤や機材などを取り入れるために外部の会社とのミーティングや研究計画書を書いたりすることも仕事の一部です。

 (2)に関しては私のプログラムではNIHからある程度の研究資金が与えられていますが、何か新たなプロジェクトを始める、大きな実験をする、となった場合は追加での資金獲得が必要となってきます。ここでの特徴的な点は、NIHが持っている研究資金は「内部用資金」と「外部用資金」がまったく別になっており、NIHで働くスタッフは内部用資金のみ申請できるシステムになっています。逆に言うと、内部用資金はNIHのスタッフのみが応募できる資金で、NIH内部での資金獲得競争が繰り広げられます。一方、皆さんが耳にしたことがあるかもしれない「R01」や「Kグラント」などはすべて外部用資金になり、NIHスタッフは応募できません。同じPIでもNIH内と外では研究室を維持していくための資金源がまったく異なるということになります。

 (3)は、研究室に来てくれたポスドクやPre-medical(医学部に入るための準備期間として大学を卒業後に数年研究を行っている人)、Summer Student、PhD Studentなどの研究のサポートと同時に、それぞれのキャリアのサポートも含めたメンターとなることも大きな仕事です。たとえば、昇進判定の際には具体的に誰をメンタリングし、どういう実績を出し、その人たちがその後どこに行ったのか、ということは非常に大切な項目となります。当然、出世するためにメンターをすることになると本末転倒ではあるのですが…。

 今回はNIHでの日常を紹介しました。私自身もまだまだキャリアの途中ではありますが、多くの先輩に助けられ、多くの失敗を経験しながらも少しずつ前に進んでいます。私がこれまでやってきたことで一番意味があったことは「できるだけ多くに人と会って話を聞く」ことです。多くの情報を得てできる限りネットワークを広げることは自身がやりたいことを見つける手助けになりますし、当然実現するための力ともなります。私もいろいろな人に助けられて今の自分があるという経験から、今の自分にできることを次の世代に提供することが自身を助けてくれた先輩に対する恩返しだと考え、積極的に話を聞くことにしています。留学することはあくまでキャリアの通過点であり最終地点ではありません。留学をどのような形で行うか(タイミング、年数、場所など)は人それぞれ違いますが、積極的にいろいろな人に連絡を取って、できるだけ多くの話を聞いてみてはいかがでしょうか。

 


リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第38回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

E(要因)およびC(比較対照)を測定可能で具体的かつ明確なものにする

 今回からは、Research Question(RQ)のE(要因)およびC(比較対照)を設定する際の要点と実際について解説します。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのRQのEおよびCは、現時点では以下のとおりです(連載第34回参照)。

E(曝露要因):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守
C(比較対照):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守

 量的な臨床研究では、この低たんぱく食事療法の遵守という「概念」を測定可能な「変数」に落とし込むことが必要です。「変数」にすることで「概念」を定量化し客観性を持たせることにより、比較が可能になるとともに再現性も担保されるようになります。具体的には、「変数」として測定するための「ものさし」とその基準(しきい値)を、それぞれ決めることが求められます。

 まずは「ものさし」です。低たんぱく食事療法の定量的評価のゴールドスタンダードとしては「食事記録法」が挙げられます。これは、患者が摂取した食事内容を詳細に記録し、その栄養成分を分析する手法です。しかし、「食事記録法」は非常に煩雑で熟練した栄養士も必要であるため、すべての患者で日常的に実施するのは現実的ではありません。そこで、一般に広く用いられているのが、24時間蓄尿中の尿素窒素排泄量から算出される「推定たんぱく質摂取量」です。先行関連研究1)でも、下記の記述のように、このMaroniの式2)と呼ばれる計算式が使用されています。

”Dietary protein intake was estimated on the basis of three consecutive 24-hour urine samples completed before each visit, using the urinary excretion of urea nitrogen as follows:”

「タンパク質摂取量は、尿素窒素の尿中排泄量を用いて、外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いて、以下のように推定した(筆者による意訳)」

 次に、基準(しきい値)ですが、これまで、「厳格な」低たんぱく食事療法の遵守の程度のしきい値を仮に 0.5g/kg標準体重/日としています。このしきい値は、この架空の臨床シナリオの舞台となっている施設の診療方針に由来するものでした(連載第5回参照)。

 「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版(日本腎臓学会編)3)」では、慢性腎臓病(CKD)ステージ別のたんぱく質摂取量の基準を下記のとおりに示しています。

CKDG3a:0.8~1.0 g/kg標準体重/日
CKDG3b以降:0.6~0.8 g/kg標準体重/日

 また、重要な関連研究である近年アップデートされたコクラン・システマティック・レビュー論文4)もみてみましょう。この論文では、低たんぱく食(0.5~0.6g/kg/標準体重/日)に加えて超低たんぱく食(0.3~0.4g/kg/標準体重/日)のしきい値も追記されていました(連載第13回参照)。

 これまでのところ、「厳格な」低たんぱく食事療法の遵守の程度のしきい値は明確になってないようです。このように、既知のしきい値が定まっていない場合は、実際の解析データ・セットの「変数」の分布に基づいて、しきい値を設定することがよく行われます。今回のわれわれの解析データ・セットでは、「推定たんぱく質摂取量」が600例余りから取得できました。「推定たんぱく質摂取量」は連続変数(量を表す変数)ですので、その代表値である「中央値」を求めてみると、0.5g/kg標準体重/日と偶然? 架空の診療方針に合致していました(連載第5回参照)。

 「中央値」は、データを大きさの順に並べたときに中央にある値です。連続変数の代表値としては、データ値の総和をデータ数で割った「平均値」も多く使われています。しかし、臨床研究で扱う多くのデータは外れ値が存在する歪んだ分布をとることが多く、連続変数の代表値としては「平均値」よりも「中央値」を用いることが推奨されています。

 そこで、われわれのRQのEとCを以下のように改訂することにします。

E:推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日未満
C:推定たんぱく質摂取量 0.5g/kg標準体重/日以上
*外来受診ごとに行った連続3回の24時間蓄尿検体を用いてMaroniの式より算出


【 引用文献 】

講師紹介

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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

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39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

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34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

18. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その1

17. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その3

16.リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その2

15. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー CONNECTED PAPERSの活用 その1

14. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その3

13. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー コクラン・ライブラリーの活用 その2

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11. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー UpToDateの活用その2

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9. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 文献管理その3

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ESMO2023 レポート 乳がん

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レポーター: 下井 辰徳氏
(国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科)

はじめに

 ESMO Congress2023が10月20日から24日の間、スペイン・マドリードで開催されました。155の国から3万3,000人以上の参加者があり、2,600演題を超える研究成果が発表されました。今年は、非常に重要なPhase3試験の結果が数多く報告され、今後の診療に影響を与える興味深い結果も多く報告されました。

 今回は乳がん領域で、非常に話題となったいくつかの演題をピックアップして今後の展望を考えてみたいと思います。

周術期乳がん演題

1)ホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)乳がん

 今年は、術前化学療法を行うようなHR+/HER2-乳がんに対して、周術期に免疫チェックポイント阻害薬を使用するランダム化比較第III相試験が2つ報告されました(CheckMate 7FL試験とKEYNOTE-756試験)。いずれも、主要評価項目である病理学的完全奏効割合(pCR[ypT0/is ypN0])については、免疫チェックポイント阻害薬併用によって向上することが示されました。

CheckMate 7FL試験(NCT04109066、LBA20)

 本試験では、新規発症のER陽性(ER+)/HER2-乳がん(病期T1c~2、N1~2個またはT3~4、N0~2個、Grade2[かつER 1~10%]またはGrade3[かつER≧1%])と診断された早期乳がん患者521例が組み入れられました。患者は抗PD-1抗体のニボルマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。

 術前化学療法相では、患者はニボルマブまたはプラセボとパクリタキセルの併用投与を受け、次いでニボルマブまたはプラセボとAC療法の併用投与を受けました。ニボルマブ360mgを3週ごとに、または240mgを2週ごとに投与されました。手術後、両群の患者は、治験責任医師が選択した内分泌療法を受けました。ニボルマブ投与群では、術後治療としてニボルマブ480mgを4週ごとに7サイクル投与されています。全体として、ニボルマブ群では89%、プラセボ群では91%の患者が手術を受けました。

 結果として、pCR率はニボルマブ群で24.5%、プラセボ群で13.8%(オッズ比[OR]:2.05、95%信頼区間[CI]:1.29~3.27、p=0.0021)であり、統計学的に有意な改善を示しました。とくに、SP142のPD-L1陽性(IC≧1)患者のpCR率はニボルマブ群で44.3%、プラセボ群で20.2%(OR:3.11、95%CI:1.58~6.11)であり、24.1%の差を認めました。

KEYNOTE-756試験(NCT03725059、LBA21)

 本試験では、新規発症のER+/HER2-乳がん(病期T1c~2かつN1~2個、またはT3~4かつN0~2個、Grade3、中央判定)と診断された早期乳がん患者1,278例が組み入れられ、抗PD-1抗体のペムブロリズマブ群またはプラセボ群に無作為に割り付けられました。術前化学療法相では、患者はペムブロリズマブまたはプラセボとパクリタキセルの併用投与を受け、次いでペムブロリズマブまたはプラセボとAC療法またはEC療法の併用投与を受けました。手術後、患者はペムブロリズマブ200mgまたはプラセボを3週間ごとに6ヵ月間投与され、内分泌療法を最長10年間受け、適応があれば放射線療法を受けました。

 本試験の2つの主要評価項目は、ITT集団における最終手術時pCR(ypT0/TisおよびypN0)割合、およびITT集団における治験責任医師評価による無イベント生存期間(EFS)でした。

 主要評価項目のpCR割合は、ペムブロリズマブ群24.3%、プラセボ群15.6%であり、統計学的に有意な改善を示しました(推定差:8.5%[95%CI:4.2~12.8]、p=0.00005)。とくに、75%程度を占める22C3のPD-L1陽性(CPS≧1)患者において、pCR割合の差は9.8%(95%CI:4.4~15.2)であり、PD-L1陰性(CPS<1)患者のpCR割合の差4.5%(95%CI:-0.4~10.1)と比較すると高いように思われました。

 表1にこれらCheckMate 7FL試験とKEYNOTE-756試験の結果をまとめています。いずれも、抗PD-1抗体の併用により、24%程度pCR割合の向上は示されたのですが、これが本当にEFSやOS改善につながるかどうかがまだ未確定のため、長期のフォローが必要になります。

 とくに、HR+乳がんでは、分子生物学的分類であるLuminal A typeではpCRが予後良好因子になっておらず、Luminal B typeでは予後因子だったという、intrinsic subtypeによるpCRの予後における意義が異なる可能性が報告されています1)。このため、今回の両試験における免疫組織化学やGradeで抽出したLuminal B-likeをもとにして、今回の臨床試験の対象集団でpCRがそのまま予後良好因子になるのか、抗PD-1抗体の長期予後における意義がまだ未確定な点が問題です。

 トリプルネガティブ乳がんの周術期治療としてペムブロリズマブの上乗せを評価したKEYNOTE-522試験であっても、pCR向上だけではFDAはペムブロリズマブを承認せず、EFSの結果(今回のESMOでのupdate EFSは5年時点でペムブロリズマブ群で81.3%、プラセボ群72.3%、HR:0.63[95% CI:0.49~0.81])を待ってから承認されたことを踏まえても、ましてER+乳がんに対して、今回のCheckMate 7FL試験とKEYNOTE-756試験の結果だけで、承認まで至る可能性は低そうです。

 もう1つの懸念は、実際に使われるようになった場合の術後内分泌療法です。ハイリスク症例は、monarchE試験に基づいて術後に内分泌療法にアベマシクリブの併用がなされます。今回のESMOで報告された3回目のOS中間解析におけるIDFSは5年時点でアベマシクリブ群83.6%、プラセボ群76.0%、HR:0.680(95%CI:0.599~0.772)と、アベマシクリブの追加効果は長期フォローでも変わっていませんでした。しかし、転移再発乳がんでのニボルマブとアベマシクリブと内分泌療法の併用療法(WJOG11418B NEWFLAME試験2))や、ニボルマブとパルボシクリブとアナストロゾールの術前治療としての併用療法(CheckMate 7A8試験3))では、いずれもGrade3以上の肝機能障害が3割以上に認められ、治療中止に至っているといった結果を踏まえると、将来的には免疫チェックポイント阻害薬とCDK4/6阻害薬、内分泌療法の併用の安全性が懸念されると感じました。

2)トリプルネガティブ乳がん NeoTRIP試験(NCT002620280、LBA19)

 NeoTRIP試験は、TNBC患者を、nab-パクリタキセルとカルボプラチンを8サイクル投与する群(化学療法群)とnab-パクリタキセルとカルボプラチンにアテゾリズマブを追加投与する群(アテゾリズマブ群)に無作為に割り付けた試験です。

 主要評価項目はEFS、副次評価項目はpCR割合で、以前にpCR割合のみが報告されていました。ITT解析において、アテゾリズマブ投与後のpCR割合(48.6%)は、アテゾリズマブ非投与(44.4%;OR:1.18、95%CI:0.74~1.89、p=0.48)と比較して統計学的有意な改善を認めませんでした。多変量解析では、PD-L1発現の有無がpCR率に最も影響する因子でした(OR:2.08)4)

 今回発表のあった、追跡期間中央値54ヵ月後のEFS率は、アテゾリズマブ非投与の化学療法単独群74.9%に対してアテゾリズマブ+化学療法群70.6%でした(HR: 1.076、95%CI:0.670~1.731)。このため、主要評価項目のEFSも統計学的有意差を示せなかったという結果でした。

 アテゾリズマブを使用した術前抗がん剤として、IMpassion 031試験はpCRの改善は認めましたが、DFSやOSは検討できない症例数で、ESMO BC2023における報告では、明らかな有意差を示していませんでした。一方で、KEYNOTE-522の結果は、前述の通りペムブロリズマブ追加でpCRも改善して、EFSも改善していましたので、真逆の結果でした。NeoTRIP試験のKEYNOTE-522試験と異なる点は、術後療法では免疫チェックポイント阻害薬を使用しないこと、術前抗がん剤治療として免疫チェックポイント阻害薬の併用ではアントラサイクリン系薬剤は使用しないこと、異なる免疫チェックポイント阻害薬を使用していることがありましたが、どのくらいこういった要素が影響するかは定かではありません。

転移・再発乳がん演題

1)HR+/HER2-乳がん TROPION-Breast01試験(NCT05104866、LBA11)

 本試験では、手術不能または転移を有するHR+/HER2-(IHC 0、IHC 1+またはIHC 2+、ISH陰性)乳がん患者732例が組み入れられました。ECOG PS 0~1、内分泌療法で進行を認め内分泌療法が適さない患者であり、全身化学療法を1~2ライン受けた患者が対象となっています。患者は、datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)(6mg/kgを1日目に投与、3週おき)を投与する群、または医師が選択した化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビン)を投与する群に1:1で無作為に割り付けられました。主要評価項目は、RECISTv1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)による無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)でした。

 本試験の結果、BICRによるPFS中央値はDato-DXd群6.9ヵ月、医師選択化学療法群4.9ヵ月、HR0.63(95% CI:0.52~0.76、p<0.0001)と、有意にDato-DXd群のPFSが良好でした。奏効割合はDato-DXd群36.4%、医師選択化学療法群22.9%でした。OSについては、イベントが不十分な状況でしたが、Dato-DXd群で良好な傾向が認められ、HR0.84(95% CI:0.62~1.14)でした。

 治療関連有害事象(TRAE)はDato-DXd群で94%、医師選択化学療法群で86%に発生したのですが、Grade 3以上のTRAE割合は、Dato-DXd群で21%対医師選択化学療法群で45%と、Dato-DXd群で低い頻度でした。また、薬剤関連の間質性肺疾患はDato-DXd群で3%、ただしほとんどがGrade 1か2でした。

 これまでにHR+/HER2-(低発現)乳がんに対するランダム化比較第III相試験で、有効性を検証した抗体薬物複合体(ADC:antibody drug conjugate)は3つ目ということになります。HER2低発現に対するT-DXdはすでに保険適用となっていますが、Destiny Breast 04試験の結果、2次治療以降の症例でPFS、OSが医師選択化学療法よりも良好であることが示されています。ESMOではOSのupdate結果が報告され、HR陽性群のT-DXd群の成績は、OS中央値が23.9ヵ月で、HR0.69(95%CI:0.55~0.87)と、これまでの報告の有効性が維持されていました。

 また、TROP2に対するADCとして、sacituzumab govitecan(SG)があり、こちらもTROPiCS-02試験の結果、PFS、OSが医師選択化学療法よりも良好であることが示されています。SGは2023年10月時点で、まだ日本では承認されていませんが、将来的に承認されることが期待されている薬剤です。

 実臨床ではまだDato-DXdは使用できませんが、仮にこれら3剤が使用可能な場合のHR陽性HER2陰性乳がんのADCシークエンスはどうなるでしょうか。

 いずれにせよ、臨床試験で組み入れられた症例はTROPION-Breast01とDestiny Breast04試験は1~2ラインの抗がん剤治療歴がある患者、TROPiCS-02試験は全身化学療法を2~4ライン受けた患者が対象でした。このため、2次治療以降のADCシークエンスが検討されます。HER2低発現であればOS改善効果が証明されている現状では、T-DXdが2次治療では優先されると思います。さらに、3次治療となればSGのほうはOS改善効果が証明されているので、同じTROP2のADCではSGの方が優先されると思います。

 一方で、HER2 0の症例では、現時点ではT-DXdは使用されませんので、2次治療での有効性はDato-DXdが優先され、3次治療でSGが検討されるのかと考えます。今後、現在進行中のDESTINY-Breast06試験の結果により、1次治療や、HER2 0の症例でのT-DXdの有効性が報告されることが期待されます。さらに、ADCのシークエンスが本当に臨床試験通り有効か? という点は非常に議論されているところですので、今後のリアルワールドデータや、臨床研究の結果が待たれます。

2)トリプルネガティブ乳がん BEGONIA試験(NCT03742102、379MO)

 BEGONIA試験は、進行転移トリプルネガティブ乳がん患者として化学療法歴がない患者を対象とした、デュルバルマブとその他の薬剤との併用療法の有効性を複数のコホートで検討するPhaseIb/II試験です。いくつもの試験治療群がありますが、Dato-DXdと抗PD-L1療法であるデュルバルマブの併用療法を検討したアーム7の有効性と安全性については、昨年2022年のサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)において、7.2ヵ月のフォローアップ中央値の結果として報告されていました。PD-L1発現が低い症例が53例(86.9%) (Tumor Area Positivity<10%) ながら、奏効割合は73.6%(61例中39例)という結果でした。

 今回は、追跡期間中央値11.7ヵ月の時点でのフォローアップ結果として、奏効割合に加え、PFSや奏効期間(DoR)が報告されました。BEGONIA試験のアーム7(62例)では、奏効割合は79%(62例中49例)で、6例のCRと43例のPRを含んでいました。PFS中央値は13.8ヵ月(95%CI:11~計算不能[NC])、DoR中央値は15.5ヵ月(95%CI:9.9~NC)、Grade 3以上の治療緊急有害事象(TEAE)は患者の57%に発現していました。最も多くみられたGrade 3以上の有害事象は、アミラーゼ増加(18%)、口内炎(11%)、便秘(2%)、疲労(2%)、嘔吐(2%)、食欲減退(2%)でした。独立委員会によって薬剤関連と判定された間質性肺疾患(ILD)事象は、Grade 2が2件、Grade 1が1件の合計3件でした。結果として、既存のトリプルネガティブ乳がんに対する初回治療の免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価したIMpassion130試験やKEYNOTE-355試験と比較しても、高い奏効割合とPFS中央値でした。

 表3に示すように、ADCとICIの併用は非常に有望と考えられ、今後の開発が期待される結果でした。

終わりに

 今年のESMOは、乳がんに限らず、肺がん、消化器がん、婦人科がん、泌尿器がんと多岐にわたり、日常診療が大きく変わり得る重要な結果が発表されました。日々、SNSでもこの最新の知見をどのように日常診療に組み込んでいくのか、議論がされています。

 われわれも、知識をアップデートしながら、日本における最適治療方針を検討していきたいと考えています。

【 参考文献 】


レポーター紹介

下井 辰徳 ( しもい たつのり ) 氏
国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科

海外研修留学便り(続編) 【米国就職記(藤井 健夫氏)】第1回

[ レポーター紹介 ]
藤井 健夫(ふじい たけお )

2007年     信州大学医学部卒業
2007-2008年 在沖縄米国海軍病院インターン
2008-2010年 聖路加国際病院初期研修
2010-2013年 聖路加国際病院内科後期研修、チーフレジデント、腫瘍内科専門研修
2013-2015年 MPH, University of Texas School of Public Health/Graduate Research Assistant, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Breast Medical Oncology
2015-2016年 Clinical Fellow, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Department of Investigational Cancer Therapeutics (Phase I clinical trial department)
2016-2019年 Internal Medicine Resident, University of Hawaii/Research Fellow, University of Hawaii Cancer Center (Ramos Lab)
2019-2022年 Medical Oncology Fellow (Translational Research Track), Cold Spring Harbor Laboratory (Egeblad Lab)/Northwell Health Cancer Institute
2022年-現在 Assistant Clinical Investigator, Women’s Malignancies Branch, National Cancer Institute (NCI), National Institutes of Health (NIH)/ Attending physician, NIH Clinical Center

 

第1回:アメリカでのFacultyポジション獲得への道のり

 前回、米国・Cold Spring Harbor Laboratoryで腫瘍内科のフェローとして勤務していたときの体験を紹介しました。それから2年ほどが経過し、現在はメリーランド州ベセスダにある米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)内の米国国立がん研究所(National Cancer Institute)で研究室主宰としてInnate Immunityと乳がんの転移に関するTranslational Research Laboratoryを運営しつつ、NIH Clinical Center(NIH内にある診療施設)では指導医として臨床試験に参加している乳がん患者さんを中心に診療を行っています。今回は、前回からの続編として腫瘍内科のフェローシップ修了からアメリカでのFacultyポジションを得るための就職活動とFacultyとしての毎日を2回に分けて紹介します。

 内科のレジデンシーとHematology/Oncologyのフェローシップを修了した後の腫瘍内科医としての道は大きく分けて3つあるかと思います。

(1)Private Practice:研究活動は行わずに、腫瘍内科クリニックなどで標準治療を行う臨床に特化した医師。

(2)Clinical Investigator:臨床試験の主任研究員(Principal Investigator)やそのほかの臨床研究などを行いつつ、日々の臨床に当たる医師。自身が主宰する研究室などは持たずに、研究室が必要な実験や解析などはほかの研究者や医師とCollaborationする形になります。(1)に比べて臨床に当てる時間が少ないことが多いです。

(3)Physician-Scientist/Basic Translational Researcher:この言葉の定義は非常に広く、個々人によって違った意味合いで用いられている印象はありますが、ここでは「自身の研究室を主宰し勤務時間の非常に多くを研究に当てつつ臨床も行っている医師」と定義したいと思います。臨床の時間は(2)よりもさらに少なくなります。

 私は(3)のFacultyポジションが一番の希望でした。しかし、詳細は割愛しますが(3)に応募するのに十分な研究資金はなく(多くの場合、フェロー中に獲得したいくらかのグラントを持ってくることを期待されています)、またそのポジションに値する自分の能力を証明するための実績(実験室での研究に関連した論文など)が非常に限られていたために、(2)と(3)の両方でポジションを探しました。実際、(2)に関してはいくつかの大学病院附属がんセンターから面接やセミナー(自分がこれまでやってきた実績の発表とFacultyとして採用された場合どういうふうに部門に貢献していけるのかということなどに関して40分程度のプレゼンテーション)の招待をいただきましたが、(3)での招待はNIHからのみでした。資金がないにもかかわらずNIHから招待があった理由は次回でお話します。

 上記のとおり、面接はもちろんのこと、セミナーで自身のこれまでの成果のアピールと売り込みをすることが必要なのですが、これらは就職活動全体を通して非常に苦労しました。セミナー用のスライド作りやセミナーでの売り込み文句など、日本人的な「そこまでではないからここはアピールせずに…」のような謙遜(?)が無意識に出てしまうことがあり、セミナーや面接ではできる限り日本人らしさは捨て、自分がこれまで何を成し遂げてきたか、何ができるか、どう貢献できるかを臆することなくアピールすることができるよう、メンターの指導のもとでスライドを作り込み、セミナーの練習を何度も行いました。

 Facultyとしての職探しは数年で修了するレジデンシーやフェローと違い、ある程度長期にわたるプランの提示が必要となります。応募者がしたいことと採用側が求めているものに乖離がある場合は、ポジションのオファーには至りませんが、個人的にはオファーを取るためにやりたくない仕事をやりますというのはお互いにWin-Winの関係にはならないという信念のもと、あくまで自分の求めることを話したうえで先方が私に期待している役割を確認するという作業の繰り返しでした。就職活動の際にはどうしても受け身になりがちな人もいると思いますが、今一度自分がしたいこと、自分が貢献できることを考えてみるのはいかがでしょうか。

 次回は、Facultyとしての日々を紹介したいと思います。

 


リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第37回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

O(アウトカム)をより具体的で明確なものにする

 今回も前回に引き続き、O(アウトカム)を設定する際の要点と実際について解説します。

 Oの設定においても、P(対象)の設定と同様に具体的で明確(連載第35回参照)かつ測定可能なものにする必要があります。現状のOである1)末期腎不全(透析導入)は充分具体的で明確でしょうか。

 以前、筆者らが出版した、慢性腎臓病(CKD)患者をPとした末期腎不全(ESKF:end-stage kidney failure)発症予測モデル研究論文1)を紹介しました(連載第9回参照)。この論文は、わが国のCKD診療中核17施設から構成される、日本CKDコホート(Chronic Kidney Disease Japan Cohort:CKD-JAC)研究の解析結果を示したものです。CKD-JAC研究のプロトコル論文2)では、ESKFとは慢性(維持)透析導入もしくは腎臓移植と定義されています。透析療法への導入は慢性(永続的)だけでなく、急性腎障害などに対して一時的に行うこともあります。そのため、永続的な施行が必要とされる維持透析への導入、と定義を明確にしているのです。また、維持透析を経ることのない先行的腎移植もESKFに対して行われることがあります。

 ESKF発症予測モデル研究論文1)での、実際のアウトカムについての記述を見てみましょう。この論文の”Materials and methods”セクションの小見出し”Primary outcome”に、以下のように記されています。

“The main outcome measure in this study was ESKF onset, defined as the need for dialysis or preemptive kidney transplantation.”

「本研究の主要なアウトカム指標は、ESKFの発症であり、これは透析または先行的腎移植の必要性として定義された(筆者による意訳)。」

 さらに以下の記述が続きます。

“Time at risk was defined as the period from study enrollment to ESKF onset, departure from the study (as a result of death prior to ESKF onset, transfer to a non-CKD-JAC facility, or con-sent withdrawal), or the end of study follow-up.”

「リスク時間は研究への登録からESKF発症、研究からの離脱(ESKF発症前の死亡、CKD-JAC非参加施設への異動、研究参加同意の撤回)、または研究追跡期間終了まで、と定義された(筆者による意訳)。」

 この記述の意味を解説するために、「発生率(incident rate)」と「打ち切り(censoring)」の定義について説明します。

 われわれが今回、計画しているのは(後ろ向き)コホート研究です(連載第8回第36回参照)。コホート研究は縦断研究ですので、あるat risk集団(連載第35回参照)におけるアウトカム発生のスピード(率)を計算することができます。

 発生率の計算式は以下のとおりです。

発生率=一定の観察期間内のアウトカム発生数÷at risk集団の観察期間の合計

 この式の分子は、前回600例余りの症例のうち約30%でプライマリのアウトカムが観察されたことを確認しており、容易に計測できそうです。一方、この式の分母を計算するためには、「打ち切り」という概念の理解が必要となります。

 「打ち切り」とは、1)研究終了時点までに着目したアウトカム(われわれのRQではESKF発症)を発生しないで観察を終えること、2)何らかの事由による観察期間中での追跡不能、に大別されます。前述したESKF発症予測モデル研究論文1)の文例では、「研究からの離脱」に関する記述が「打ち切り」に該当します。また、この文例の主語である「リスク時間」が、先に示した発生率の分母(at risk集団の観察期間の合計)と同義となります。

 したがって、われわれのRQのOでは「打ち切り」についても定義を明確にし、以下のように改訂することにします。

O:1)末期腎不全(慢性透析療法への導入もしくは先行的腎移植)*打ち切り(末期腎不全発症前の死亡、転院、研究参加同意撤回などによる研究からの離脱)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度


【 引用文献 】

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

47. 何はさておき記述統計 その8

46. 何はさておき記述統計 その7

45. 何はさておき記述統計 その6

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43. 何はさておき記述統計 その4

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41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

36. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1

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1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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ESMO2023速報 乳がん

|企画・制作|ケアネット

2023年10月20~24日に開催されたESMO Congress2023の乳がんトピックをがん研有明病院の尾崎 由記範氏が速報レビュー。


レポーター紹介

尾崎 由記範 ( おざき ゆきのり ) 氏
がん研究会有明病院 乳腺センター 乳腺内科/先端医療開発科


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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その1【「実践的」臨床研究入門】第36回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

 今回はO(アウトカム)を設定する際の要点を解説します。これまでブラッシュアップしてきたわれわれのResearch Question(RQ)のOは下記のとおりです(連載第34回参照)。

O:1)末期腎不全(透析導入)、2)糸球体濾過量(GFR)低下速度

O(アウトカム)は測定可能で臨床的に意義があるか

 まず、ここで設定したOが測定可能で臨床的に意義があるものなのか、再考してみましょう。末期腎不全(透析導入)は明確なイベントであり、カルテ調査でその発症日も容易に確認できます。GFRは血清クレアチニン値(Cr)と年齢、および性別で算出される腎機能評価の指標で、日本人の集団でも確立された計算式が論文で公開されています1)。GFR低下速度は、複数回のCrの経時的評価が行われていれば計算できますので、客観的な測定が可能です。末期腎不全(透析導入)は患者さんにとって、生活が大きく変わるハードエンドポイントであり、臨床的にも大きな意義があるOと考えられます。一方、GFR低下速度はサロゲートエンドポイントです(連載第3回参照)。しかし、GFR低下速度の持続的な加速は、慢性腎臓病(CKD)患者さんの末期腎不全発症を含めたハードエンドポイントの予測因子であることが多くの臨床研究の結果から示されています。したがって、これも臨床的に重要なアウトカムと言えるでしょう。

 さて、われわれのRQの曝露要因(E)は、低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日の遵守という厳格な食事療法です。すでに設定した腎予後に関するOの臨床的重要性は前述したとおりですが、厳格な食事療法に伴う負担など、負の側面も気になりませんか。たとえば、厳格な低たんぱく食事療法によるQOL悪化の懸念は、診療ガイドラインなどでも指摘されていますが、明らかなエビデンスはこれまでに認められていないとされています。今回、われわれが実施を予定しているのは、カルテ調査をベースにした、いわゆる「後ろ向き」の観察研究です(連載第1回第6回参照)。QOL尺度(連載第3回参照)の経時的な測定は、日常診療では一般的に行われていないと思いますし、われわれのカルテ調査データでも収集はできませんでした。このように、通常の臨床現場で測定されないOについては「後ろ向き」ではなく「前向き」研究でなければ検討できない、ということです。ちなみに、前回紹介したDOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)は、血液透析患者さんを対象とした「前向き」観察研究です。DOPPSでは多大なコストをかけて、経時的な健康関連QOL尺度(連載第3回参照)の測定と収集も行っています。

 また、前回説明したとおり、研究の効率や実施可能性の観点から、できればP(対象)はOを起こしやすい集団である方が望ましいです。つまり、発生頻度が多いOを設定した方が研究の効率が良いということです。そこで、今回の「後ろ向き」観察研究の解析で使用するデータをざっと確認してみたとしましょう。保存期CKD患者さん600例余り、最長5年間の観察期間のカルテ調査データを収集・調べてみたところ、全体の約30%の症例でプライマリのOである末期腎不全(透析導入)の発生が確認できました。実施可能性の高い解析データが収集できたものとホッとした次第です。


【 引用文献 】

講師紹介

harasense

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授

[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


バックナンバー

53. 線形回帰(重回帰)分析 その4

52. 線形回帰(重回帰)分析 その3

51. 線形回帰(重回帰)分析 その2

50. 線形回帰(重回帰)分析 その1

49. いよいよ多変量解析 その2

48. いよいよ多変量解析 その1

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41. 何はさておき記述統計 その2

40. 何はさておき記述統計 その1

39. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その2

38. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐E(要因)およびC(比較対照)設定の要点と実際 その1

37. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップ‐O(アウトカム)設定の要点と実際 その2

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35. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2

34. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その1

33. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その8

32. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7

31. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6

30. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5

29. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4

28. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その3

27. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その2

26. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その1

25. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その5

24. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その4

23. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その3

22. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その2

21. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 PubMed検索 その1

20. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その3

19. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 学術誌、論文、著者の影響力の指標 その2

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5. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その2

4. リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用その1

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1. 臨床上の疑問とリサーチ・クエスチョン

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第35回

提供元:CareNet.com

本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。

P(対象)をより具体的で明確なものにする

 今回は前回に引き続き、P(対象)を設定する際の要点について解説します。

 Pを設定する際、PがResearch Question(RQ)で設定したO(アウトカム)のat risk集団(Oを発生する可能性のある集団)であることも、押さえるべきポイントです。前述のとおり(連載第34回参照)、プライマリのOは末期腎不全(透析導入)と設定しました。したがって、すでに末期腎不全に至り、透析導入(もしくは腎臓移植)された患者さんはat risk 集団にならず、除外されることになります。

 できればPは設定したOを起こしやすい集団とするのもコツのひとつです。なぜなら、Oを発症しやすい集団を対象とした方が研究の「効率が良い」からです。ここで言う「効率が良い」の意味は、より少ないサンプル数や短い観察期間で興味のあるOの発生数を確保することができる、ということです。その結果、研究の実施可能性や統計的な検出力が高まります。

 筆者が米国留学以来関わっている、DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)という血液透析患者さんを対象とした国際的な臨床疫学研究があります。血液透析患者さんは健常人と較べて、死亡や心血管イベント発症などハードエンドポイント(連載第3回参照)を起こすリスクがかなり高い集団です。ハイリスクな血液透析患者集団の中でも、その予後には国際間で大きな差があることが知られています。日本の血液透析患者さんの予後は、米国の患者さんのそれより圧倒的に良好なことが、DOPPSなどの研究成果から示されています。米国留学中にご指導頂いていたミシガン大学の腎臓内科と臨床疫学の名誉教授であるFK Port先生が、”US data are bad for patients but good for statistical analysis.”と日本から来た筆者に自虐的に? おっしゃっていたことを覚えています。

 また、「研究対象集団」のデータ取得の場である「セッティング」についてキチンと明記することも重要です(連載第34回参照)。われわれのRQの「標的母集団」は慢性腎臓病(CKD)集団全体です。しかし、本研究で実際に診療データにアクセスできるのは自施設の外来に通院中の患者のみであったとすると、「セッテイング」は単施設外来ということになります。単施設の「セッテイング」で行われた臨床研究では、その施設の特性やそこに通院する患者背景などの偏り(選択バイアス)が結果に影響を及ぼす可能性があります(連載第34回参照)。

 ちなみに、このような「選択バイアス」の影響を出来るだけ減らすために、DOPPSでは「2段階無作為抽出法」というサンプリング手法がとられています。第1段階として、研究施設を所在地や経営母体(公立・私立など)、施設規模(患者数)を考慮して無作為に抽出。第2段階で、施設規模に合わせて研究対象患者を施設毎に無作為抽出。このようなサンプリング手法を用いることにより、「研究対象集団」の代表性を担保しているのです。

 さて、ここで、われわれのRQのPをあらためて以下のように整理してみました。

P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者
 組み入れ基準:診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者
 除外基準  :ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者
S(セッティング):単施設外来

 このように組み入れ基準、除外基準、セッテイングも含めて、Pをより具体的で明確なものにします。そうすることにより、研究結果の解釈が容易となり、またその研究結果を他の状況に適用する際の判断もしやすくなるのです。


【 引用文献 】

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長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
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[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。


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ASCO2023レポート 乳がん

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レポーター: 下村 昭彦氏
(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科)

 2023年6月2日から6日まで5日間にわたり、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)がハイブリッド形式で開催された。リアルタイムのライブ配信も設けられたものの、多くのセッションは現地開催+オンデマンド配信(以前のvirtual meeting)であり、以前の学会形式にかなり近い形になっているのを実感できた。私も3年の時を経て、ついにシカゴの地に再び降り立つことができた。米国国内からの参加者はほぼコロナ以前に戻っているようであったし、コロナ前ほどではないにしても、日本からも多数参加されていた。各国の旧知の研究者と、すれ違いざまにあいさつするなど、かつてのコミュニケーションが戻ってきたことを強く実感した。

 今回のASCOのテーマは“Partnering With Patients: The Cornerstone of Cancer Care and Research”であった。乳がんの演題は日本の臨床にインパクトを与えるものは少なく、とくにホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんで日本と諸外国の標準治療の違いが今後大きな問題になる可能性を予見させるものであった。日本からの演題も含め4演題を概説する。

NATALEE試験

 本試験はStageIIAからIIIまでのホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+HER2-)乳がん術後を対象として、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI、5年以上、閉経前および男性はゴセレリンを併用)にribociclib 400mg/日を3年間内服することの上乗せを検証した試験である。ribociclib群に2,549例、ホルモン療法単独群に2,552例が割り付けられた。

 主要評価項目は無浸潤疾患生存(invasive disease free survival:iDFS)で、3年時点(観察期間中央値27.7ヵ月)でribociclib群90.4%、ホルモン療法単独群87.1%(ハザード比[HR]:0.748、95%CI:0.618~0.906、p=0.0014)と統計学的有意にribociclib群で良好であった。副次評価項目の3年無遠隔再発生存もribociclib群で90.8%、ホルモン療法単独群で88.6%(HR:0.739、95%CI:0.603~0.905、p=0.0017)とribociclib群で良好であった。全生存期間(overall survival:OS)についてはribociclib群で良さそうな傾向はあったもののイベントも少なく有意差は観察されなかった。有害事象は好中球減少、肝機能障害、QT延長、悪心、頭痛、倦怠感、下痢、血栓症などがホルモン療法単独と比較して増加した。

 ホルモン療法へのCDK4/6阻害薬(CDK4/6i)追加のメリットを証明した試験としてアベマシクリブのmonarchE試験がある。NATALEE試験とmonarchE試験の違いとしては、NATALEE試験はN0症例を含むなど範囲が広い(リスクの低い症例が含まれている)ことが大きい。ハイリスク症例でどちらの薬剤がより有効かは不明であるが、N0かついくつかのリスク因子を持っている症例はribociclibが治療選択肢になるであろう。一方、400mg/日と転移乳がんに対する用量よりも少ないものの(転移乳がんでは600mg/日)、それなりの毒性のある薬剤を3年間内服することのハードルは高いと思われる。もっと残念なことは、ribociclibの日本の推奨用量は400mgにも及ばず、現在国内での開発は停止していることである。ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんの術後治療においても(タモキシフェンが標準ということも含めて)、日本と海外の標準治療の違いが目立ち始めている。

SONIA試験

 CDK4/6iはHR+HER2-乳がん治療における重要な薬剤の1つである。NATALEE試験でも述べたようにribociclibは日本では使用できないが、パルボシクリブ、アベマシクリブについては標準治療である。ホルモン療法併用での1次治療、2次治療のエビデンスがあるが、いずれのラインでもOSを延ばすというエビデンスがあり、「いつ使うべきか」についてはまだ議論の余地があるところである。

 SONIA試験は前治療歴のないHR+HER2-進行乳がんを対象に、1次治療としてNSAI+CDK4/6iを、2次治療としてフルベストラントを行う(First-line CDK4/6i)群と、1次治療としてNSAIを行い2次治療としてフルベストラント+CDK4/6iを行う(Second-line CDK4/6i)群を比較するランダム化比較第III相試験である。主要評価項目は2次治療までのPFS(PFS2)とされた。1,050例の症例が、First-line CDK4/6iに524例、second-line CDK4/6iに526例割り付けられた。

 観察期間中央値37.3ヵ月時点で1次治療におけるPFSはAI+CDK4/6iで24.7ヵ月、AI単独で16.1ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.51~0.69、p<0.0001)とAI+CDK4/6i群で良好であったが、主要評価項目のPFS2はfirst-line CDK4/6iで31ヵ月、second-line CDK4/6iで26.8ヵ月(HR:0.87、95%CI:0.74~1.03、p=0.10)と両群間に差を認めなかった。またOSについても両群間の差を認めなかった。また、安全性についてはfirst-line CDK4/6iでGrade3以上の有害事象が多いと報告され、演者らは1次治療における内分泌単剤療法は“excellent”なオプションであると結論付けている。

 本試験結果はCDK4/6iの適切な使用について一石を投じるものであるが、本試験の解釈には注意を要する。それは、CDK4/6iとして使用された薬剤である。両群ともに、パルボシクリブが91%、ribociclibが8%、アベマシクリブに至っては1%しか含まれておらず、基本的にはパルボシクリブの試験として解釈すべきである。いずれの薬剤も1次治療、2次治療におけるPFSのベネフィットは示されているが、OSについては薬剤によって異なる。1次治療におけるOSベネフィットは、ribociclibでは証明されており、アベマシクリブでは良好であるものの統計学的有意差は証明されていない(最終解析未)。パルボシクリブは1次治療におけるOSベネフィットが否定されており、かつ2次治療では良好な傾向にあるものの統計学的有意差は示されていない。したがって、日本以外の国では広く使われているribociclibや、あるいはアベマシクリブが多く含まれていれば、結果が異なっている可能性がありうる。SONIA試験の結果のみをもって、CDK4/6iは1次治療で使用しなくてよいとは結論付けられないであろう。

PATHWAY試験

 もう一題、CDK4/6iについての発表を取り上げたい。これまでに閉経前の患者を含む1次治療のCDK4/6iのエビデンスはribociclibのMONALEESA-7試験しかなく、日本では使いづらい面があった。そこで実施されたのが国立がん研究センター中央病院を中心にアジア共同で行われたPATHWAY試験である。

 本試験は、HR+HER2-乳がんの1次もしくは2次治療を対象として、タモキシフェン(TAM)にパルボシクリブを上乗せすることのメリットを検証したプラセボ対象ランダム化比較第III相試験である。184例の症例が登録され、パルボシクリブ群に91例、プラセボ群に93例が割り付けられた。主要評価項目はPFSとされた。

 PFSは、パルボシクリブ群で24.4ヵ月に対し、プラセボ群で11.1ヵ月(HR:0.602、95%CI:0.428~0.848、p=0.002)とパルボシクリブ群で良好であり、TAM+パルボシクリブ療法の有用性が証明された。サブグループ解析ではいくつか興味深い結果が見られた。1次治療(112例)ではパルボシクリブ群でPFSが良好だったが、2次治療(72例)では両群間の差を認めなかった。また、閉経前(52例)ではパルボシクリブ群のPFSが良好であったが、閉経後では両群間の差を認めなかった。したがって、TAM+パルボシクリブは閉経前の1次治療でより積極的に考慮できると言えよう。

 ただ、世界的には閉経前の1次治療はAI+ribociclib+LHRHアゴニストである。NATALEE試験と同様、世界で標準となっているにもかかわらず日本では使用できないために標準治療が異なる患者集団が存在することは、今後の日本での治療開発において大きなハードルになりうるだろう。

JCOG1017試験

 最後に外科系の演題、JCOGからのものをご紹介したい。JCOG1017試験は初発IV期乳がんに対する原発巣切除の意義を検証した試験である。これまで、インドやトルコ、あるいはECOG、ABCSGなど、さまざまな国、臨床試験グループから原発巣切除の意義を検証した試験が公表されている。ただ、それぞれの試験ごとに、薬剤感受性を見たうえでランダム化、あるいは診断時点でランダム化し手術を実施など、かなり背景が異なっていた。それに伴い、トルコの研究以外はいずれも原発巣切除の意義を示せていない。

 JCOG1017では1次登録のうえで初期薬物療法を実施し、病勢進行とならなかった症例を2次登録し、手術群、非手術群にランダム化した第III相試験である。570例が1次登録され、407例が2次登録、非手術群に205例、手術群に202例が割り付けられた。手術群のうち、実際に手術が実施された症例は173例であった。切除は乳房病変のみであり、腋窩郭清は実施されなかった。

 主要評価項目である生存期間(OS)中央値は非手術群で68.7ヵ月、手術群で74.9ヵ月(HR:0.857、95%CI:0.686~1.072、p=0.3129)と両群間の差は認めなかった。手術群において、断端陽性は断端陰性と比較して有意にOSが不良であった。5年局所制御率は非手術群で18.7%、手術群で53.2%(HR:0.415、95%CI:0.327~0.527、p<0.0001)と手術群で良好であった。OSに対するサブグループ解析では、閉経前症例、転移臓器が1個までの症例で良好な傾向であった。

 以上から、ECOG2108試験などと同様、原発巣切除はすべての初発IV期乳がんに推奨できるものではないと結論付けられた。しかしながら、一部の症例においては、とくに局所制御において原発巣切除がオプションになりうると考えられ、今後この重要な結果をどのように臨床で活かしていくかについて深い議論が必要であろう。


レポーター紹介

下村 昭彦 ( しもむら あきひこ ) 氏
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
 乳腺・腫瘍内科/がん総合内科