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本連載は、臨床研究のノウハウを身につけたいけれど、メンター不在の臨床現場で悩める医療者のための、「実践的」臨床研究入門講座です。臨床研究の実践や論文執筆に必要な臨床疫学や生物統計の基本について、架空の臨床シナリオに基づいた仮想データ・セットや、実際に英語論文化した臨床研究の実例を用いて、解説していきます。
前回、前々回で、下記のわれわれのResearch Question(RQ)の関連研究レビューのための検索式(例)を、P(対象)、E(曝露)それぞれの構成要素のブロックごとにPubMed Advanced Search Builderで実際に作ってみました。
P:非ネフローゼ症候群の「透析前」慢性腎臓病(CKD)患者
E:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守
C:食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守
O:1)末期腎不全(透析導入)、2)eGFR低下速度の変化
今回からは、さしあたり作成した検索式の検索能力を検証してみたいと思います。
検索式の検索能力の検証
検索能力の高い検索式とはどのようなものでしょうか。筆者は、RQに関連する「Key論文」(連載第16回参照)が漏れなくヒットし、かつ関係ない論文(ノイズ)は拾ってこない検索式だと考えます。しかし、「漏れがない」ことと「ノイズを拾う」ことは相反する事象であり、なかなか両立しえません。まずは、「Key論文」が漏れなく検索できるように、とりあえず作成した検索式の検索能力を検証し、適宜修正を加えていく方針で検索式をブラッシュアップしていきましょう。
PubMed Advanced Search Builderで検索式の検索能力を検証するのに先立って、連載第16回で引用文献としてお示しした、われわれのRQの「Key論文」のPubMed Unique Identifier(PMID)を調べます(連載第23回参照)。PMIDは個々の論文の「PubMedへのリンク」を開くと、論文題名の直下に示されています。以下は連載第16回の当該「Key論文」10編(引用文献11はPubMed非収載なので除外)それぞれのPMIDを[pmid]タグ(連載第23回参照)で指定してORでつないだ検索式です。
「Key論文」のブロック
・17943769[pmid] OR 19652945[pmid] OR 18779281[pmid] OR 19588328[pmid] OR 23793703[pmid] OR 26710078[pmid] OR 29914534[pmid] OR 30935396[pmid] OR 31882231[pmid] OR 33150563[pmid]
前回、前々回で作成した、P、Eそれぞれの構成要素のブロックの検索式も下記にまとめて示します。
Pのブロック
・Renal Insufficiency, Chronic[mh:noexp] OR ”chronic kidney disease*”[tiab] OR ”chronic renal disease*”[tiab] OR CKD[tiab] OR predialysis[tiab] OR pre-dialysis[tiab]
Eのブロック
・Diet, Protein-restricted[mh] OR ”low-protein diet*”[tiab] OR ”protein-restricted diet*”[tiab]
前回解説したようにPとEのブロックをANDでつないでまとめます。この暫定的な検索式の検索能力を検証するために、さらに「Key論文」のブロックとNOTでつなぐと、本稿執筆時点(2023年1月)では、下の表のような結果になりました。

残念ながら、暫定検索式では「Key論文」10本のうち7本がヒットしないという結果でした。次回からは、暫定検索式にかからなかった「Key論文」のMeSH terms(連載第21回参照)などをチェックし、検索式を手直しする方法を解説します。
講師紹介

長谷川 毅 ( はせがわ たけし ) 氏
昭和大学統括研究推進センター研究推進部門 教授
昭和大学医学部内科学講座腎臓内科学部門/衛生学公衆衛生学講座 兼担教授
福島県立医科大学臨床研究イノベーションセンター 特任教授
[略歴]
1996年昭和大学医学部卒業。
2007年京都大学大学院医学研究科臨床情報疫学分野(臨床研究者養成コース)修了。
都市型および地方型の地域中核病院で一般内科から腎臓内科専門診療、三次救急から亜急性期リハビリテーション診療まで臨床経験を積む。その臨床経験の中で生じた「臨床上の疑問」を科学的に可視化したいという思いが募り、京都の公衆衛生大学院で臨床疫学を学び、米国留学を経て現在に至る。
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